一鉢の蘭から、洋蘭店を始めるまで
2026年10月、「あづまや洋蘭店」が始まります。
私が初めて蘭を買ったのは4年前。それまで33年間、趣味と呼べるものはほとんどありませんでした。
最初の一鉢は、枯れました。
それでも次に買ったのは一鉢ではなく、いきなり三鉢。
そこから毎朝、毎晩、蘭を見る生活が始まり、4年後には会社を辞めて蘭の店を始めることになりました。
何がそこまで面白かったのか。
そして、なぜ自分で蘭を作る「洋蘭園」ではなく、「届ける店」を始めるのか。
少し書いてみようと思います。
最初の一鉢は、枯れました
最初に買った蘭は、枯らしかけてから、なんとか生き返らせようと、YouTubeやSNSで蘭の栽培についてとことん調べました。
株もすぐに枯れたわけではなくて、しばらく粘っていたんです。なんとか生き抜こうとしているように見えました。
でも、結局は枯れました。
これ、後から知ったんですが、植物を枯らしたらそこでやめる人って多いんですよね。
自分も、かけたお金に対して「枯れてしまった」という損得計算はしました。
最初の蘭は3,000円くらいでした。
でも、自分が感じたことは逆だったんです。
「たった3,000円で、こんなに毎日楽しめるのか」と。
旅行やグルメ、ファッションとか、娯楽にはいろいろありますけど、朝も夜も毎日楽しめて、調べることまで含めたら、こんなにコストパフォーマンスのいい娯楽はないなと思いました。
だから、枯れたあとすぐに本格的な洋蘭園を検索して、次の蘭を探しに行きました。
そのときは、いきなり三株買いました(笑)。
蘭は、生き物だった
蘭を調べていく中で、一番大きかったのは「生き物なんだ」と気づいたことです。
当たり前なんですけど、それまでの自分にはその感覚がなかった。
蘭は日々動くし、こちらの世話に反応する。ちゃんと好き嫌いもあるし、株ごとに個性もある。
自分は蘭の面白さには、大きく「育成」「コレクト」「バトル」の三つがあると思っています。
その中で、最初に知ったのが「育成」の悦びでした。
花を見て終わりではなく、生き物と付き合っている感覚です。
朝起きて蘭、寝る前も蘭
蘭を始めてから、とにかく毎日見ていました。
同じ株を、毎日何度もじっくり観察する。
朝起きて最初に見に行って、寝る前にも見る。これは4年経った今でも欠かしていません。
一時期は、仕事が手につかないくらいでした(笑)。
写真もずっと撮っています。
成長過程を記録してXに投稿するんですが、Xは植物の記録にすごく向いているんです。
後から自分で振り返れるし、「ここが変わった」と気づいたことを他の人とも共有できる。
蘭のイベントにも、関東で開催されるものはほとんど参加していました。
イベントの数週間前から「今度は何に出会えるんだろう」と楽しみで仕方なかったですね。
自分が何をしていると幸せなのか
33年間ほぼ無趣味だった生活で、一番変わったのは、意外かもしれませんが金銭感覚です。
ちょうど結婚した時期と重なっていたこともありますが、それまでは「なんとなく節約する」「なんとなく良い給料をもらう」という感覚がありました。
未来のために蓄えることに価値を置いていたんだと思います。
でも蘭と出会って、自分が生涯幸せでいるために必要なお金って、そこまで多くないのかもしれないと思うようになりました。
自分が何をしていると幸せなのか、わかってしまったからです。
まあ、そのわりには蘭をやたら買い漁っていますけど(笑)。
「作る」ではなく「届ける」
そこまで蘭が好きなら、自分で蘭を作る「洋蘭園」をやればいいと思われるかもしれません。
でも、そこは違いました。
自分がやりたいのは、生産者になることではありません。
この4年間で蘭を見てきて、すでに面白い蘭を作っている生産者さんがたくさんいることを知っています。
一方で、普通に生活していると、その蘭を見る機会がほとんどない。
お店で見かける蘭といえば、花が咲いた胡蝶蘭が中心です。
でも本当は、花がなくてもかわいいし、きれいだし、一生懸命生きています。
だったら、自分は生産を中心にするのではなく、良い蘭を見つけて、育てたい人に届ける側をやりたい。
だから「あづまや洋蘭園」ではなく、「あづまや洋蘭店」です。
蘭を始める人を増やしたい
蘭を始める人にとって、一番の壁は、枯らしてしまうことだと思います。
正確には、枯らしてしまう前に必要な情報を得る手段と、その情報を取りに行く動機がないこと。
最初から「絶対にこの蘭を育てたい」と強い動機を持っている人ばかりではありません。
だから、もっと気軽に情報を知れる環境が必要だと思っています。
知れば、人間が普通に暮らしている室内の環境に合う蘭もたくさんあります。
それを知らないまま、「蘭は難しそう」「自分には無理そう」で終わってしまうのは、もったいないなと思います。
あづまや洋蘭店では、お部屋で育てられる小さな蘭を中心に、株姿そのものが美しいものを届けたいと思っています。
「花が咲いているから買う」だけではなく、花がない時期にもそこに置いておきたくなるもの。
毎日見ていると、少しずつ変化する。
育て方を調べたくなる。
その株のことをもっと知りたくなる。
自分が最初の一鉢で知った「育てる面白さ」につながる蘭を選びたいです。
生産者さんから仕入れた株や、自分で育てた株を、通販や小売店を通じて届けていきます。実店舗は持ちません。
「あづまや」という名前
「あづまや」は、実家がやっていた「あづまや化粧品店」から取りました。
自分で新しく格好いい名前を考えるより、自分のアイデンティティが一番詰まっている名前だと思いました。
会社を辞めて、蘭一本でやっていく。
その店に付けるなら「あづまや洋蘭店」だな、と。
2026年10月から始めます。